2021/09/14
出典:株式会社魚磯
令和2年度、日本一の餃子の街に返り咲いた浜松市。同市の名物である「浜松餃子」は、市民にも観光客にも親しまれる逸品です。
そんな中、“郊外の餃子店に食べに行けない方々にも気軽に浜松餃子を楽しんでもらいたい”という想いから、冷めてもグニャッとせずパリパリ食感が続く「浜松餃子弁当」が登場。2020年に製造方法に関する特許と「魚磯」や「餃子三兄弟」の商標のブランド戦略を展開。さらに、やらまいか精神(※)溢れる地域ブランドとして、浜松商工会議所のやらまいかブランドにも認定され、地域振興を支えています。
そんな餃子弁当の開発を行った磯口様(株式会社魚磯)、その支援に携わった影山様(浜松商工会議所)と近藤様(静岡県知財総合支援窓口)の3名に支援の経緯や背景をインタビューしました。
出典:株式会社魚磯
※浜松独特の気風で、“やってみよう!=やらまいか”というチャレンジ精神を表す言葉
出典:浜松商工会議所
株式会社魚磯 代表取締役社長 磯口道治 様(中)
浜松商工会議所 経営指導員 影山隼也 様(右)
静岡県知財総合支援窓口 近藤達憲 様(左)
Q.餃子弁当開発のきっかけを教えて下さい。
磯口:地元の金融機関主催の「とうとうみセレクション」という展示会にたまご焼きをもって出展しました。工夫した商品パッケージ(意匠登録)を用いたところ、多くの方に興味を持っていただきました。その中で東海Kioskのバイヤーの目に留まり、新たな商品への引き合いにつながりました。バイヤーから「浜松らしい特徴的な商品が欲しい」という要望があり、折しも浜松餃子が日本一を競っていたこともあり浜松らしい「餃子弁当」の提案を行いました。バイヤーからの「コンビニのようなプラの弁当箱でも普通のお弁当でもなく、駅弁のような雰囲気が出るようにしよう」というアドバイスを受け検討が始まりました。
Q. 餃子弁当を作るにあたって製法を考え出す際の苦労はありましたか?
磯口:餃子はもちろん焼きたてが一番おいしく、時間が経つと皮がグニャッとしてしまいます。展示会や催事場でも、熱い鉄板で焼き立てを提供する。職人が手をかけておいしい焼き立てを提供しても、餃子は一人歩きができないんです。持ち帰ったら包装することで蒸れておいしい状態が保てない。せっかくおいしく焼いた餃子。一人歩きできる商品にできないか、持ち帰ってもおいしい餃子にすることができないか、と思ったことが発想の起点です。
Q. 静岡県知財総合支援窓口による支援の経緯を教えて下さい。
近藤:磯口さんとは、もともと浜北商工会からの支援要請で、食品製造機械の改良に関する特許相談を静岡県知財総合支援窓口で受けていました。その繋がりで磯口さんは、「全国の公共交通機関であるJR駅構内で餃子弁当を販売するにあたり、餃子弁当用の餃子の製造方法が他社の権利を侵害するものではないことを確認したい」という他社知財の意識に加えて、東海Kioskさんとの契約で知財を持っていることの重要性を認識されていました。そういった経緯から、新規製法開発の餃子弁当に関する特許相談を受けることになりました。
Q. 知財総合支援窓口では、どんな支援を行ったのでしょうか。
近藤:焼売のしっとりした食感と違って、パリパリ感を求められる餃子は冷めるとグニャっとしてしまい、せっかくの食感とおいしさが半減してしまいます。魚磯さんが試行錯誤を繰り返し、時間経過してもグニャっとしない餃子を作る製法技術を開発しました。権利化に際し、知財総合支援窓口の専門家である居藤洋之弁理士の支援を得ながら技術的特徴を検討し、出願した結果、登録となりました。
また関連する商標、関連商品の特許も出願しました。さらに知財総合支援窓口の専門家の井上和世先生からデザイン・ブランド戦略について指導を受けながら、より多くの人に浜松餃子を知ってもらうよう進めています。
Q. 餃子弁当が浜松の地域ブランドである「やらまいかブランド」に認定された経緯を教えて下さい。
影山:やらまいかブランドは、浜松地域の特産品や様々な地域資源を活用した商品のうち、“やらまいか精神あふれ、さらなる成長が期待できる新商品”を浜松商工会議所が地域ブランドとして認定しているものです。
餃子弁当は、「ありそうでなかった」「できそうでできなかった」を実現した商品であり、まさにやらまいか精神にあふれ、今後浜松を代表する商品になり得ると判断されました。そして、2020年。厳しい審査を経て、やらまいかブランドに認定されました。
出典:浜松商工会議所
Q. 今回は、浜松商工会議所様と静岡県知財総合支援窓口が連携して浜松餃子弁当のブランド化支援を行ったと伺いました。
近藤:連携に関しては、浜松商工会議所は月2回定期的に知財相談会を開いており、窓口とはそれぞれの特徴を生かしながら連携して支援を行っています。また窓口が設置されている浜松地域イノベーション推進機構とは中小企業支援の目的を共通にしており、今回の浜松餃子弁当への支援も同機構の知財コーディネーターと連携して実施しました。
知財はまだまだ多くの企業に知られていないため知財総合支援窓口でも商工会議所と連携して、知財の啓発活動に協力やお客様をご紹介いただいております。また一方では、企業が開発した商品のPR戦略や販路拡大に商工会議所の様々な機能を生かして知財の利活用を連携して進めております。
影山:浜松商工会議所は、市内商工会とも連携して地域経済の発展を目指しています。磯口さんから餃子弁当のアイデアを伺ったとき、今後大きな展開が可能な商品であると感じたため、知財総合支援窓口に協力をお願いしました。
出典:浜松商工会議所
影山:浜松商工会議所では、やらまいかブランドの冊子を作成して観光地に配架したり、やらまいかブランド販売コーナー等を設置して販売支援やPR支援を行ったりしています。
「餃子弁当」は知的財産権が明確であるため、浜松商工会議所としても自信を持ってPR支援ができますし、バイヤー等に紹介することができています。
出典:浜松商工会議所
出典:株式会社魚磯
Q. どんな想いで支援に携わってきたのでしょうか。
影山:浜松餃子はメディア等にも取り上げていただいていますが、餃子の店は郊外にあることが多く、観光客が浜松餃子を食べたいと思っても諦めてしまうという問題があります。そんな中、磯口さんはそういった方々にも“気軽に浜松餃子を楽しんでもらいたい”という気持ちで餃子弁当を開発されており、その想いに共感し、是非応援したいと思いました。
近藤:浜松餃子日本一を目指して、食べ比べをし、タレがこぼれないようにするにはどうすれば良いかなど、皆で様々な切り口でディスカッションを繰り返しました。パリパリ感のある浜松餃子の美味しさを広く味わっていただきたいという想いで支援しました。
また、餃子弁当だけでなく、新たに開発された餃子おむすび、簡単に餃子を楽しんでもらうためのカップ入り餃子を「餃子三兄弟」としてブランド戦略、販売戦略の支援を行いました。
出典:株式会社魚磯
Q. 餃子弁当で特許をとろうと思ったきっかけを教えて下さい。
磯口:東海Kioskと契約をする際に知的財産権に関する侵害がないことが条件になっていました。それを専門家の居藤洋之弁理士に相談した結果、先行技術はないということを確認でき、新しい製法を特許出願するに至りました。出願に当たり、浜松地域イノベーション推進機構の特許等出願費補助金を活用しました。そして、特許出願中として東海Kioskより販売してもらうことができました。
無事に特許登録ができた時、魚磯独自の技術であるという自信とともに、他社技術を侵害していないという安心感が生まれました。
Q. 魚磯様の店舗の窓には特許証等が飾られておりますが、事業を行う上で知的財産(特許、意匠、商標)はどのように役立っているのでしょうか。
磯口:知的財産を活用することにより、弊社が「単に商品だけを売っているのではなく、独自の思想も売っている」ことを長年弊社とお取引いただいている取引先様は勿論、新規取引先様等に対しても知っていただくことができます。それにより、事業の信頼性と同時に、弊社他の商品の期待値も向上しました。
また、商標出願中の餃子三兄弟のレタリングをして特許登録済みをアピールした特殊な車を走らせているのですが、周りの反応も変わったと感じています。餃子弁当の梱包と同時にパンフレットやアンケートを同封しているのですが、嬉しいコメントを多くいただくようになり、知財の魔力を実感しています。
出典:株式会社魚磯
Q. 浜松商工会議所や静岡県知財総合支援窓口の支援を受けてみて、変化はありましたか?
磯口:大企業であれば社内にノウハウや人的資源、予算もあるかもしれませんが、中小企業以下はそれが難しいという実態があります。そこで、公的支援機関からの支援を受けていると、書類を提出する際に「ここから支援を受けているんですね」と信頼度が上がります。一カ所ではなく複数箇所でそのような印象を受けました。今までにない商品や製造方法を中小企業及び零細企業のみで独自に展開するよりも、支援を受ける事で、書類等の信用力は必ず高まります。
Q. 浜松餃子が日本一になったことによって、なにか変化はありましたでしょうか。
影山:浜松餃子日本一の影響として、メディア掲載がかなり増えました。浜松餃子は貴重な地域資源であるということをあらためて実感しているところです。アフターコロナに向けて、浜松PRの強力なツールとしてさらに活用していきたいと思っています。
中小企業や小規模事業者は、特許や商標の権利関係に関して、「小規模でやっているから・・」といって後回しにしがちなケースが多いのですが、知的財産権を明確にしていくことは安定して継続的に事業を実施するために、重要なことであると再認識しました。
出典:浜松市役所HP
Q. 浜松は「餃子の街」であり「ものづくりの街」でもあるということで、餃子弁当はまさに、浜松を象徴するような商品ですね。そんな商品を開発した魚磯さんの今後の見通しを教えて下さい。
磯口:餃子弁当から1つのステップアップとして、餃子の技術を使用した新商品を開発しています。それに関連した商標も出願中です。今後、徐々に展開し、新たな提案を積極的に行っていきたいと思っています。
餃子弁当は、知財をうまく生かしたものですが、地元の浜北商工会との関係、そして浜松商工会議所との連携で幅広いPR戦略に結びつけ地域をあげての文化の形成、餃子の街浜松の地域振興にもつながっていると自負しています(笑)。
出典:株式会社魚磯
― 浜松のため、浜松の人のため、浜松を訪れる人のため。皆さまの想いに胸が熱くなりました。そんな想いがつまったパリパリ食感の餃子弁当、なんだか食べてみたくなりましたね。次の旅行先は浜松で決まりでしょうか。
餃子弁当は、浜松駅の東側店舗と新幹線待合室店舗にて販売されています。
出典:浜松商工会議所
こちらの事例は、特許庁の広報誌「とっきょ」49号にも掲載されています。