2021/12/21
「お、落ち着いて聞いて下さいね!・・・入賞しました!!しかも、国土交通大臣賞です!!」この電話を受けたとき、「あなたが落ち着いてくださいよと思いました。(笑)」と長岡弁を交えながら明るい笑顔で話すのは、新潟県長岡市に拠点を置く株式会社山高建設の高野社長。山高建設は、令和3年9月に消雪パイプメンテナンス技術で第23回国土技術開発賞創意開発技術賞を受賞し、国土交通大臣表彰を受けました。この成功の裏にはどんなストーリーがあったのか、山高建設の高野社長とその支援を行った中俣さんと伊藤さんの3名にお話を伺ってみました。
株式会社山高建設 代表取締役社長 高野浩 様(中)
新潟県よろず支援拠点 チーフコーディネーター 中俣順弥 様(左)
新潟県知財総合支援窓口 伊藤里子 様(右)
Q.消雪パイプメンテナンス事業のきっかけを教えて下さい。
高野:会社経営に関して長年色々な課題を抱えていました。まず、建設業は季節性がはっきりしていて、4月は自治体の予算が通ったばかりですぐに仕事がでない。ゴールデンウィーク前や雪が降る前の時期に仕事が入るものの、1月になると売り上げ激減。何十年やっていてもこの流れは変わらないんです。
また、2004年の中越地震後、需要の高まりにより仕事が増えたものの、景気が落ち込むと、建設業の数が多いので価格競争の波に飲み込まれる上に、機械や燃料が高くなるのでどんどん収入が減ってしまうという現象が起こりました。ずっと下請けでやってきていた点も課題となっていました。
そんな中、とある建物の施工後、引き渡しの前に「外構」の汚れが気になるので綺麗にしてもらいたい」という話がありました。そこで、そういったニーズがあるなら外注せず自分たちでやればいいのでは?と思いました。それまで、高圧洗浄機を使ってクレーンの汚れを落としたりしていたので、外に向かって使えるようにしたら需要があるのではないかとひらめきました。
高野:新しい事業をやるとなったら会社経営の柱にしたい!ということで、まずは金融機関に相談してみました。経営革新計画認定企業の審査を受ける中で、審査員の方から「先行してやっている会社があるかまずが調べてみた方が良い」と言われました。そして調べてみたら既に同様の事業を行っている会社を見つけました。それは山梨の企業だったのですが、都会の落書きを落としたいということで洗浄事業を始めたようでした。そこで、たまたまその企業が代理店を募集していたので、ノウハウを勉強するために代理店に加入することにしたんです。
高野:代理店加入後は、営業をして回らなければならなかったのですが、営業はこれまでやったことがなく、顧客開拓にとても苦労しました。
豪雪地帯である長岡特有の問題として道路の赤さびがあり、これを綺麗にすることを売りとしていたのですが、しかし、いくら営業してまわっても「綺麗にしてもどうせまた赤さびは出てくるんだから、そんなの必要ない」と言われてしまうんです。
そんな冬のある日、私は毎朝犬の散歩をしているのですが、早朝の暗い中、毎日電気がついている所があり、ある時、「何をやっている会社だろう」と思い調べてみたらポンプ屋さんだったんですね。それで「そうか、雪が降ると地下水を使うしポンプを回すし故障もあるから毎日仕事しているんだな」と思って、ふと自分の足元にある消雪パイプを見て「これだ、見える部分を洗浄するのではなく、見えない部分、管の中を洗浄すれば赤さびも減るのではないか」と思ったんです。道路の真ん中に雪を溶かすために地下水を散水する配水管=(これを消雪パイプと呼びます)が張り巡らされていて、そこから赤さびが生じるんです。したがって、この高圧洗浄技術を長岡で役に立てられたらと思いました。
高野社長の愛犬、メイちゃん
高野:技術開発にあたっては、まず、新潟県工業技術総合研究所に相談し思いの丈を語り、その道の人に力を借りました。続いて、新潟県よろず支援拠点に相談しました。そこで自分のアイディアを担当者の木村コーディネーターに伝えたところ、新潟県知財総合支援窓口についないでいただくことになりました。
中俣:高野社長は、経営革新認定に関する相談をきっかけによろず支援拠点に相談に来られました。そこでお話を伺っていく中で、「こだわりのサービス名を付けてしっかりPRに役立てたい」というご要望があり、これは知財が関わる話だと思い、木村コーディネーターは知財総合支援窓口を紹介することにしました。
伊藤:よろず支援拠点からのご紹介でいらっしゃった高野社長から「消雪パイプクリーニングのサービス名である“リバーサルクリーニング“に関して商標を取得したい」というお話を伺いました。商標のお話だけでなく、世間話を含めた色々なお話を伺っていく中で高野社長の長岡への熱い想いに感動し、喜んで支援をさせていたただきました。
高野:伊藤さんに相談させていただいているうち、これはいけるんじゃないかと思い始めて、先が見えてくるような気がしました。木村さんは経営支援のプロ、伊藤さんは知財支援のプロ。これから、その道のプロの人たちを徹底的に頼ろう!と強く思いました。
Q. リバーサルクリーニングの由来はなんだったのでしょうか?
高野:リバーサルクリーニングは、ドレーン(排出口)から逆方向のポンプに向かって洗浄するという技術を使っています。逆から戻していくということで当初リバースという言葉浮かんだのですが、妻や会社のスタッフからイメージが良くないと言われてしまいた。ほら、リバースするとか言うでしょ(笑)
しかし、逆から行くということをどうしても表現したかったので、英語の辞書で調べてみたところ、リバーサルという形容詞が目に留まりました。そこで、リバーサルクリーニングにしようと決めました。
Q. 商標の権利を取得されたとき、どんなお気持ちでしたか?
高野:伊藤さんにアドバイスをいただきながら、“リバーサルクリーニング”の文字商標を取得することができました。伊藤さんの力を借りれば権利がとれるんだ!と思いました。それがさらに励みになりました。
伊藤:商標やサービス名は先に出願することが重要なので、使い始める前に相談していただいたのが非常に良かったと思います。
商標登録第6147759号
Q. 新潟ブランドのお墨付きであるMade in 新潟に応募されたのですよね?
高野:長岡でやるからには、県のお墨付きが大事なので、県が公募しているMade in 新潟に応募してみました。トッキッキ(新潟県のマスコット)も好きなので自社のHPにのったらいいな~と思ったのもあります。
しかし、初回はMade in 新潟の担当者より「既にあるものを組み合わせているだけだから新規性がない」との理由で落とされてしまいました。でも長岡にとってはこの技術は必要なものだから、新規性云々ではないということでさらに火がつきました。そこから技術の改良改善の日々が始まりました。
高野:Made in 新潟の落選を受けて、よろず支援拠点の生産性向上、設備改善などを専門とする木村コーディネーターに相談したところ、「ノズルを変えれば新規性の問題は解決できるのではないか?」というコメントをいただきました。このアドバイスを受けてノズルを工夫し、洗浄力を上げたことが今までにないアイディアとなり、新規性につながったんです。技術面では工業技術総合研究所の研究員からも助言をいただきました。改めて、Made in 新潟に再チャレンジしたところ、無事、登録技術として認定されました。
その後、ある展示会で知財総合支援窓口の伊藤さんがブースにいらっしゃった際に状況等をお話ししました。やはり特許権を取得したいという気持ちをお伝えしたところ、どんどん支援をいただけるとのこと。ただし、新聞等メディアにも取り上げられており、早急に申請を検討すべきとのお話でした。
「特許性については窓口の専門家に相談してみましょう」とご提案いただき、専門家の松浦弁理士を交えて相談をさせていただきました。すると、松浦弁理士が「もしかしたらこれはいけるかも?」と言い、出願してみようという話になりました。新規性喪失の面から早期権利化を図る必要性があるとのことで早期審査で出願し、特許を取得しました(特許第6751961号)。
伊藤:特許はそう簡単に取れるものではありませんが、高野社長と松浦弁理士の相性が良かったことも大きかったですよね。権利化のポイントなど、綿密に打合せをされた結果なのだと思います。
高野:これに続いて経営を拡大していくために、ノウハウを蓄積しました。文字のみ権利を取得していた商標も今度はロゴを取りました。ロゴは、サービスを旗揚げするための手段になります。
商標登録第6355117号
伊藤:特許出願中で審査結果を待っている間、高野社長から、「リバーサルクリーニングをどうやって広報していけばいいのかわからない」という話があったので、今度は知財総合支援窓口からよろず支援拠点につなぎました。
中俣:知財総合支援窓口とよろず支援拠点の連携プレーの見せどころですね。よろず支援拠点では、プレスリリースと販促、販路開拓に関する支援をさせていただきました。
プレスリリースは普通の人はなかなか手を出しませんが、やるとなったらやり抜くというのが高野社長の良いところですね。
高野:中俣さんのアドバイスを元にプレスリリースを投げたら見事にヒットしたんです。テレビ局などの取材を受けました。最近はYouTubeもやっていて、再生数は24万回以上いっているのですが、チャンネル登録者数は少ないです。消雪パイプの洗浄はマニアックすぎるのでしょうね。(笑)
Q. どんな想いでこの事業に取り組まれているのでしょうか。
高野:消雪パイプのクリーニングは豪雪地帯である長岡で需要があると感じています。パイプから水が出なくて困っている人、例えば、道路に消雪パイプあっても、さびや汚れなどでパイプが詰まってしまうと水が出なくて雪が溶かせず、冬に高齢者が外に出られないとなると人命にも関わります。そのような困った人たちが使いやすくて頼みやすいというものを目指しました。これまでは消雪パイプは詰まったら非常に高額なメンテナンス料かかっていたのですが、コストを3分の2に抑えて道路を掘らなくて済むようにしたのが本サービスのメリットです。水が出なくなった消雪パイプから水が出るようになってそこのおばあちゃん達が喜んでくれました。長岡の方に喜んでいただくことを一番に考えています。
中俣:コストは3分の2、道路を掘らなくて良いというのは施工・発注担当者にとって大きなメリットですが、大変なのは山高建設さんですね。
高野:その苦労が楽しいんです。私は長岡で生まれて長岡で育った。他の県に行くと具合悪くなってしまうほど長岡が好きで。(笑)生まれ育った長岡に恩返しをしたいと想いです。
日本三大花火の一つである長岡名物の花火
作業中の高野社長
Q. 国土交通大臣表彰のきっかけは何だったのでしょうか?
高野:Made in 新潟の窓口である新潟県土木部技術管理課からお知らせがきたのがきっかけでした。案内がきて畏れ多い気持ちはあったものの「やってみよう」と思いました。申込み後、審査には6か月くらいかかりました。その間メールで審査員と何度もやりとりをして、審査員から「なぜ道路から水が出るんだ、なぜ水が詰まるんだ」といったようなことをあれこれ聞かれ、粘り強く説明をしてようやく審査員に理解していただけました。道路から水が出るなんて、普通、他地域の人には想像できませんよね。(笑)
高野:ある日、国土技術開発賞の担当者の方から興奮気味に「お、落ち着いて聞いてくださいね・・・!」という電話が入りました。あまりに落ち着きのない様子だったので、あなたが落ち着いてくださいよと思いました。(笑)そして、彼は「入賞しました!しかも国土交通大臣表彰です!」と言ったんです。
こんなこともあるんだなぁと認めていただいて本当に光栄で。この技術が必要なものだと思ってもらえたことが非常に嬉しかったです。そして、真っ先に伊藤さんに連絡をしました。あ、中俣さん、ごめんなさいね。(笑)
伊藤:高野社長からお電話をいただいたとき、本当に嬉しくて。こんなに素晴らしい企業に関わらせていただいて、支援担当者としてなんて幸せなんだろうと思いました。
授賞式の様子
Q. 受賞の影響はなにかありましたか?
高野:自分は変わっていないのですが、周りの反応が変わりました。どこかに行く度に「新聞出てたね」などと声をかけられ、高校時代の担任からも突然連絡がきました。
そして「見たよ~がんばれよ~」と励ましてもらったんです。さらに、弊社のサービスの問い合わせも急激に増えました。
伊藤:「困っている人の役に立ちたい」という高野社長の想いがカタチになった瞬間ですね。
高野:支援していただいた中俣さんや伊藤さんには、成功する方法を教えていただきました。
起業したい人こそ、支援機関のお力を借りて、やっていくのがいいと思います。特に若いうちは失敗してもいい。年をとってくると失敗が回復できず許されないこともありますが。(笑)まずはどんどんチャレンジしないと!
徹底して人(支援機関)の力を借りると決めて、よろず支援拠点や知財総合支援窓口を頼りにさせてもらいました。そして、最速で夢を実現することができたんです。
中俣:やってみて検証して改善して・・を繰り返し、そのPDCAサイクルをやめないということが一番大事ということを支援者である我々が高野社長から学びました。
何か困っていることがあればなんでもいいので是非我々に話して下さい。その中で専門の人を紹介していくことも可能です。ハードルが低い組織なのでお気軽にお声がけ下さい。
伊藤:ビジネスの周りには必ず知財が関わっているのでなんでもご相談下さい。知財総合窓口で対応できないものはよろず支援拠点につないだりしながらなんでも対応します。
― 生まれ育った長岡を心から愛し、そんな地元とそこに住む人の役に立ちたいという想いが、特許の取得からMade in 新潟の登録、そして国土交通大臣表彰という成功につながり、カタチとなった山高建設。
今日も長岡の人々の生活を支える消雪パイプは、この技術によって磨かれ続けています。赤さびが長岡から消える日もそう遠くないかもしれません。