当社は、キノコ類を人工栽培する際に用いられる菌床栽培用袋(商品名:STバッグ「商標登録」)の製造・販売メーカーとして平成7年に設立した会社です。その後、製造機の自社開発や製造ラインの自動化に取り組み、販売エリアも設立当初の九州管内から徐々に拡大し、平成20年には松山営業所を開設、現在では、東北、北海道にも製品を出荷し、国内の約4割のシェアを獲得しています。また、昨年からキノコ類の菌床栽培用袋の需要が見込める中国や韓国にもSTバッグの輸出を開始しており、今後は海外生産も予定しています。
当社の強みは、独自開発した菌床栽培用袋の製造技術にあります。製造技術を極め、高い生産効率を達成したことで、価格競争に強い製品となっています。
また、菌床栽培用袋で最も多い不良である底シールの強度について徹底した品質管理を行っており、業界第一の信頼を得ています。さらに、お客様の要望の把握に努めながら、新機能を付加した菌床袋の開発にも取り組んできました。その結果、これまで実用新案権1件、特許出願3件を出願しています。
また、製品技術を知財で保護することで他社との差別化を図りながら営業ツールとしても活用しており、これまでに数社の新規顧客の獲得に繋がっています。
菌床栽培用袋でキノコ種菌を培養する場合、空気を通過させ雑菌の侵入を阻止するフィルタを菌床栽培用袋に溶着します。また、菌床栽培用袋での培養工程が完了した後は、菌床を菌床栽培用袋から取り出す必要があり、従来、刃物等で裂く作業が一般的で、危険で菌床等を傷つけてしまうことが問題となっていました。出願した菌床栽培用袋は、この問題を解決したもので、フィルタの溶着方法を工夫することで、手の力のみで菌床栽培用袋を簡単に引き裂くことができるようにしたものです。安心・安全で効率よく作業ができるようになったとの評価を頂いています。
宮崎県産業振興機構の相談窓口に、手の力のみで簡単に袋から菌床を取り出せるようにした新しい菌床栽培用袋を開発したので特許出願を検討したいとの問合せがあり、担当のコーディネーターから窓口を紹介され相談に来られたのがきっかけでした。
特許(実案)の登録要件と先行技術調査の必要性について説明して理解して頂きました。また、特許の先行技術調査方法の指導を行った結果、関連性の高い先行技術文献が抽出されたため、新規性、進歩性を判断する必要があることを説明し、専門家による支援を提案させて頂きました。
知財専門家(弁理士)と同社を訪問し、特許権の権利範囲の捉え方や先行技術の回避方法について説明させて頂きました。その後も、フィルタ材質に着目した新しい菌床栽培用袋の権利化や海外展開時における知的財産戦略、ブランド化への取組等の相談を受け、知財専門家(弁理士、デザイナー)及びINPITの海外知的財産プロデユーサーを派遣して支援させて頂きました。その結果、特許(中国、韓国への海外出願含む)ならびに実用新案を出願することができ、商標を活用したブランド化を含めた会社案内や製品パンフレットのリニューアルにも繋げることができました。
同社には、技術保護に対する特許や実用新案という産業財産権制度に留まらず、海外展開、ブランド化といった知財活用についても理解を深めて頂いたと思います。また、出願を通して自社技術の重要性も再認識されています。さらに、国内における差別化ツールとしての知財活用も成果に繋がっていますし、今後の海外展開についても、これまでの支援が生かされるものと期待されます。
当社は、キノコ類の国内需要が伸び悩む中、他社との差別化や海外展開の必要性を感じているところでした。窓口を利用して、自社のみでは判断できない問題の解決や専門的な知見を習得することができました。中小企業にとって大変役立つ事業と思います。
同社は、オリジナル技術を権利化し他社との差別化や事業展開に効果的に活用されています。今後の海外展開については、新たな知財戦略も含め営業秘密の管理も重要になってくると思います。知財専門家や海外知的財産プロデユーサーの派遣を含め、事業が成功するよう継続して支援させて頂きたいと思います。 (轟木 博)
菌床栽培用袋の知財保護と事業展開支援(1.7 MB)
掲載年月日:2015年10月 7日
更新年月日:2022年9月14日