当社は、これまで大企業等から受託して専用治具、測定装置、自動機を開発製造する特機事業を企業経営の中心としてきました。今回、経営基盤の強化を図るため、これまでの特機事業に加えて、お客様のニーズに基づいて自社で製品を企画する定番製品事業をスタートしました。
当社は、とくに高精度が要求される測定装置及び検査装置、高い信頼性と低ランニングコストで稼働できる自動機の開発を得意としています。当社は、これらの装置を企画・構想から設計・製作だけでなく据付・保守まで一貫して行っています。また、少人数ならではの軽快なフットワークとチームワークが自慢で、顧客ニーズに合わせた小回りの利く会社として評価され、自動車関連や電気品関連の大企業との共同開発実績もあります。これらの実績に基づいて平成23年度和歌山県1社1元気企業登録を受けています。
当社は、定番製品事業の第1号商品として、「円筒内面の三次元面取り寸法測定装置」を開発しました。この装置は、航空宇宙機器分野等の精密加工品の形状測定を目的としたものであり、二次元形状測定器に当社独自のハンドリング機構と冶具とを組み合わせることにより、三次元測定装置以上のパフォーマンスを安価に実現しています。この装置は、測定者の練度に関係なく短時間で高精度に被験物を測定できるとともに、データーの収集や分析も簡単な操作で行うことができます。当該商品は、経済産業省近畿経済産業局主催の「関西ものづくり新撰2016」に選定されました。
同社社長は、他社との共同開発の相談で窓口を訪問され、その相談に対応いたしました。今後の進め方を検討するため事業内容についてヒアリングしていく中で、知財管理の必要性についてお話をさせて頂き、今回の支援に繋がりました。
最初の相談では、別の開発内容について主にご相談いただきました。相談の中で今回支援対象となった三次元面取り寸法測定装置についても併せてご説明頂きました。詳細にお聞きしたところ、事業上こちらの製品の方が重要で、かつ他社と共同開発している進捗状況からしても至急対処する必要があることがわかりました。
前捌きとして、対象となる技術内容及び他社との関係について整理した後、弁理士とともに訪問し、今後の進め方について支援を行いました。詳細には、同社社長に知財管理における費用対効果及びノウハウ管理の必要性についてご理解いただき、最終的に第三者による侵害が立証容易でキーとなる技術については特許出願を検討することとなりました。また、共同開発している他社との関係については、秘密保持契約で明文化することとしました。
以前は、大企業のオーダーメイドの装置が主で、相手企業との秘密保持契約の関係もあり、知財管理とは無縁と考えておられていたようです。しかし、今回自社で企画した商品を販売されるにあたり、費用対効果と秘密情報管理を考慮しつつ、自社技術を単独で特許出願する経験をされました。また、他社との契約管理についても経験されましたので、知財管理の第一歩を踏みだされたのではないかと感じています。
当社は、知財管理というと特許出願による権利化が主で、自社の技術を開示し、費用が掛かる割にはリターンがないということで、これまでの業容では比較的ネガティブに捉えていました。しかし今回、これらのデメリットをいかに少なくし、より大きいリターンを得るかについて、出願を依頼する前に関係者で十分な議論を行いました。知財総合支援窓口をこのような形でご利用いただければと思います。
今回支援の対象となった三次元面取り寸法測定装置は、将来有望な航空機分野に関連するユニークな新商品であり、今後も他の支援機関と連携して定期的にフォローアップを行い、知財だけでなく、事業全体をサポートしていきたいと思います。 (熊代 真澄)
費用対効果と侵害立証を考慮した特許出願(168.3 KB)
掲載年月日:2016年3月 8日