当社では、船舶の船型設計・開発支援および船舶の流体抵抗の低減や推進効率向上のための「省エネ装置」の開発を行っています。また、船主に対しては船舶の建造計画や就航船の運航実績評価など運航側の支援も行っています。近年の海運・造船業は中国や韓国など東アジア、東南アジアで盛んであり、当社もこれら海外の企業と連携しながら、国内にとどまらず海外での事業も積極的に実施しています。
これまでの造船設計におけるノウハウの蓄積と、国内外の大学、研究機関及び企業と連携しながら技術力の向上を図っている点が強みと考えています。また、国際的な学会やフェアに積極的に参加して最新情報の収集を迅速に行うとともに、海運業者との情報交換を行い、自社に対する評価を把握しながら技術力の向上に努め、ユーザーからの信頼を得ていると考えています。
船舶の燃料消費を削減するためには、船体や推進装置の流体抵抗を低減し、推進効率を向上させることが不可欠です。そのためには、抵抗の大きな原因となる船首尾形状とプロペラ推進機において生じる損失、を最小限にする必要があります。当社では、船尾から発生する渦の流れを制御し、推進機プロペラとの干渉を利用することで、流体損失の低減を可能にする「省エネステーター」(特許第5137258号)を開発しました。当社が蓄積した船体周りの流れに係るノウハウを駆使して、船舶個々の流動状況を予測し、それに基づきステーターの形状を最適化するもので、様々なユーザーの要望に的確に対応しており、現在250隻以上の船舶に搭載されています。
同社の支援を行っている公益財団法人長崎県産業振興財団からの依頼を受け、同社における知財に係る事項に対する種々相談を受けるようになりました。
同社は、中小企業庁の平成26年度補正「中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業」の採択を受け、新たな設計技術の開発を進めています。目標通りの成果の目途が得られたので、権利化に向けた支援要請を受けました。しかし、技術内容が流体シミュレーションと3Dプリンターとの単なる組み合わせと見なされる可能性があったため、弁理士を派遣し、権利化に向けたアドバイスを行いました。その結果、権利として請求できる技術要件を見出すことができ、特許出願を行うことになりました。
特許出願は特許事務所に委託されましたが、海外出願も希望されたので、出願費用の補助が得られる特許庁の「中小企等外国出願支援事業」を紹介しました。一般社団法人長崎県発明協会が実施した28年度一次の募集に採択され、これを利用して海外出願をすることにしました。また、同社では近年特許出願が多くなっており、社員の意識が高まっていると考えられました。そこで、平成28年4月施行の職務発明の改正内容を説明したところ、本改正に則って同社規定を見直すことになりました。
これまで社長一人が検討していた知財を、社全体の取組みとして捉えるようになり、知財に対する若手社員の意識が向上してきたと感じられます。また、海外での権利化も積極的に行うようになり、海外での事業展開に弾みがつくと期待されます。
多額の費用と膨大な時間を掛けて開発した新たな技術は、何とか自社で守りたいものです。知財総合支援窓口では、先行調査、権利化、海外展開において、いろいろサポートしてくれます。気軽に相談したらよいですよ。
同社は、小規模の事業者ですが技術レベルは高く、国内さらには海外での事業も順調に展開中です。現在世代交代の時期にあり、将来の更なる事業展開に知財を有効に活用していただけることを期待します。 (加藤 敏)
船舶設計システムの権利化と海外展開への支援(1.1 MB)
掲載年月日:2017年7月31日
更新年月日:2020年3月10日