当工房の代表は三十数年間の福祉関係業務の傍ら、障害者用自助具の製作や、機能回復訓練に使用する遊具の開発を行い、さらに自分自身の生活の中での不具合解消に役立つ用具の創案に取り組んできました。これらの経験から、世間の皆様に必要とされる用具を提供したいと考え、退職を期に起業しました。
当社事業としてはまず、「あきたビジネスプランコンテスト2015」で最優秀賞をいただいた「雪下ろしの労力を軽減する雪カッター」にしぼり、生産・販売を始めました。ガレージ工房に工具を広げてハンドメイドで生産し、秋田県南部のホームセンターなど5店で販売していただいています。
雪カッターで事業を開始しましたが、並行して新製品の開発も行なっています。開発のテーマは、自分で不具合を感じた物、友人知人らの提案、他人の行動から察し必要性を感じた物などです。「提案者とともに考える」をモットーに、身近な材料で安価に、使いやすい用具の開発に努めています。
当工房を訪れる方も多く、日常会話の中から商品開発につながるケースもあります。最近では代表に「何かを作る人」というイメージが定着したようで、課題はもちろん不要になった工具類の提供もいただいています。周囲には同年代の職人がおり、製作方法などの専門的なアドバイスを受けやすい環境です。このように、地域と共にあるのが当工房の一番の強みです。
当地域は降雪量が多く、一冬に数回の屋根の雪下ろしが必要な地域です。この作業は、まず屋根の上に積もった雪をサイコロ状に小分けし、これを屋根から下ろすという重労働であり、高齢化、過疎化が進んだこともあって、雪下ろしを行う人の確保が難しくなってきています。
この作業の労力を軽減させる効率の良い方法を模索した結果生まれた「雪カッター」は、1500gと軽量にもかかわらずサイコロ2面を一度に塊崩れなく切ることができ、スコップで切り出すといった既存の方法に比べて大幅な労力軽減となり、体力の落ち始めた方や女性でも容易に雪下ろしができるようになりました。YouTubeに実際の映像がありますので、これをご覧の上、ぜひ一度お試しください。(https://youtu.be/PoYtsBLrKWQ)
相談者は、商品「雪カッター」の前身である「サイコロカッター」の実用新案を2013年3月に自己出願しました(実用新案登録第3184388号)。4月になって、いつ頃登録証が届くのかという疑問を持ち、知財総合支援窓口に電話で問い合わせを行ったことが最初の窓口相談でした。
その後、公益財団法人あきた企業活性化センター主催の「あきたビジネスプランコンテスト2015」にて同工房の「雪国の雪下ろし作業を軽減する雪カッターの事業展開」が最優秀賞を受賞し、製造販売を開始する直前に、上記の実用新案登録だけで知財保護が十分かどうか確認したいという相談がありました。
派遣専門家である弁理士による相談を行い、自己出願した上記実用新案登録の記載内容では他者による模倣品を排除するには不十分なことを理解いただき、意匠権による保護をすることを勧め、2016年9月に登録されました(意匠登録第1563502号)。また、次の商品として考案した「ガイド付き除雪具」についても弁理士による専門家相談を行い、模倣品排除効果が期待できる内容の実用新案を自己出願し、登録となりました(実用新案登録第3206901号)。
知財総合支援窓口を活用することにより、「雪カッター」は意匠権に保護された商品として事業展開することが出来ました。また、「ガイド付き除雪具」についての弁理士相談で、開発品のどの部分を特徴とすればより広い権利取得ができるかなど知財に関する理解が深まり、これを次の商品開発に活かしたいと考えておられます。
実用新案の登録願書は自分でも書けるとのお話を伺い、専門家である弁理士から的確なアドバイスを頂きながら書類を作成し、自力で実用新案権を取得できました。また、新たな商品企画についても適切なご意見をいただき、商品改良の参考になりました。知的財産に限定することなく、事業に係る些細なことでも知財総合支援窓口に相談すれば親身になって対応していただけけると思います。
雪国秋田で生まれた「雪カッター」は相談者が数年間にわたり試行錯誤・工夫を重ねて世に出した商品なので、その労力軽減効果は抜群です。但し、その構造構成はシンプルなので、発売後すぐ類似品が出てくるリスクが高いと感じ、意匠登録出願もするよう支援しました。今後の地域に密着した商品開発についても、支援を継続して行きたいと思っています。 (田嶋 正夫)
雪下ろし軽減商品「雪カッター」を知財で守る(410.9 KB)
掲載年月日:2017年8月 7日