当社は、陶磁器の産地、岐阜県東濃地方で家庭用・厨房用高級陶磁器製造販売を行っており、全顧客数は約1500社にのぼります。
『器を通して豊かな生活を提案』することを社のスローガンに掲げており、生産面では「多品種、少量、短納期」を実現するモノづくりを目指して日産6万個の食器を製造しています。そのため「智恵を付けて量産体制を変革」する活動を実践しています。陶磁器業者でありながらトヨタ生産方式も
取り入れ、「はば寄せ」という手法での工場内改善を推進中です。
販売面においては『メープル』というブランド(社長名楓から)を立ち上げ、海外へも積極的に販売活動を推進しています。
約60年間、美濃焼のメーカーとして主に食器を製造してきたため、下絵付け(染付)を得意とし、ゴム版技術、手描技術に加えて、パット印刷技術を応用して多くの形状に印刷する技術を確立しました。高温焼成の磁器の他に伝統的な美濃焼土物製品も手掛けています。また、数年前に開発した新軽量強化磁器の美濃美人「おかるのキモチ」は、地域資源の認定を得て業務用食器として、特に老人施設、病院などに拡販中です。
さらに、2014年12月に金や白金を用いて描いた絵柄や文字が耐摩耗性、耐薬品性を大幅に改善出来る技術を開発し「エバーゴールド」と命名したものを特許申請しました。
食器(お皿やどんぶり茶碗、洋食プレートなど)の高級感を出すため、従来から金や白金での文字や絵柄を描いていました(転写)が、それらの接着力が弱く数回洗うと金が剥がれてしまうという問題がありました。そこで当社は金液メーカー、転写メーカーとタイアップして強固に接着出来る技術を開発しました。それは特許取得の可能性がある技術であったため、岐阜県知財総合支援窓口の支援を受けて特許出願を実施しました。その性能は従来品の接着強度に比べて約40倍の強度(社内評価で)を有しています。現在はサンプル供与や量産販売も開始していますが、顧客の評価も良く順次販路拡大(日本、海外)を進める計画です。
窓口支援担当者として新規に顧客(企業)開拓をすべく同社を訪問し、知財総合支援窓口が対応可能なこと、対応不可能なことを説明し、各種支援制度も紹介しました。
さらに、公益財団法人岐阜県産業経済振興センターのコーディネーターも兼務しているので、両面での支援が可能なことも伝えたところ、「新しい技術を3社で開発しているが、特許性があるか相談したい」という依頼があり、特許出願へ向けて支援を開始しました。
まずは同社の開発技術に新規性と進歩性があるかを確認しました。同時に、IPDL(現在のJ-PlatPat)を使って既存特許の調査方法を指導しました。その結果、新規性はあると判断されたため進歩性についても確認しましたところ、現状品より約40倍の耐久性があるということでしたので、専門家(弁理士)派遣を実施し特許出願に向けて支援しました。
「ものづくり補助金」の申請書作成支援を行い、採択されました。その際、プロセス合理化と品質の作り込みの方法が特許取得出来ないか、と相談を受けました。工程内の製造技術に関する特許になるので、先使用権という方法もありますが、特許取得目的を確認したところ販促ツールとして活かしたいという意向でしたので、専門家(弁理士)を派遣してアドバイスを行いました。
窓口支援を通して、1)知的財産に関する意識の高揚 2)工場改善に取り組む姿勢の変化 という2点がクローズアップされてきました。特に金や白金を用いて描いた絵柄や文字の耐摩耗性、耐薬品性を大幅に改善できる技術の特許取得(申請中)は、顧客に与えるインパクトがあり、販促ツールになることが理解されてきました。また、そのような活動が社員のモチベーション向上にも繋がることも感じておられ、全体で言うなら社内の意識改革に繋がってきています。
知的財産(主に特許)を取得すれば他者からの模倣を防ぐことができるのみならず、企業経営にも大きなインパクトを与えるということをしっかり理解し、積極的な知財運用を心掛けると良いと思います。そのためには「知財総合支援窓口」は入門的なところから専門的なところまで支援が得られるので、大いに活用すべきです。そこから他の公的機関への橋渡しもしていただけるため、メリットは多々あると考えます。
本件は窓口担当者が積極的に企業へ出向いて「知財総合支援窓口」をPRした結果から、具体的な支援が出来た良い例であったと思います。また、知財が経営(販売、社内意欲向上)にも寄与することを企業が認識してくれたことは嬉しい限りです。企業にとって最重要なことは売上アップであり、それに少しでも貢献できれば幸いです。 (宮川 良明)
特許出願による販路拡大と社員のモチベーションアップ(482.6 KB)
掲載年月日:2017年8月31日