同組合は、京都府綾部市黒谷地区で黒谷和紙を生産している生産者の組合です。黒谷和紙は800年前、平家の落武者が黒谷の村に隠れ住み、生活の糧として紙漉きを始めたのが始まりと言われ、当地区はその古法を今も守り続ける日本でも数少ない手漉き和紙の産地です。昔は提灯紙や傘紙など、主に生活に密着した和紙として使用されてきましたが、現在は生活様式の変化に伴い、書や和紙加工品、壁紙など素材として様々なシーンで活用されています。
黒谷和紙は1983年に京都府無形文化財、2006年には京もの指定工芸品に指定されています。
主な原料に「楮(こうぞ)」を使い、原料処理から紙漉きまでを手作業で行うことから、繊維に与えるダメージが弱く、強靭な和紙が作り出されます。当組合規格の定番商品をはじめ、お客様のご要望に沿った小ロットでの和紙を作る事も可能です。
定番の生漉き(国産楮100%使用)は、3匁から14匁までを1匁単位で取り揃えております。また、紙衣原紙とよばれる厚口の生漉き楮和紙は、染にも使用することができ、クッションやバッグといった和紙加工品にも使用されています。
同組合は、黒谷地区で生産された手漉き和紙を使った種々の商品に「黒谷和紙」のロゴをつけて販売されています。近年偽物が出回って困っており、「黒谷和紙」という名前を商標登録して偽物を防止したいと相談に来られました。
登録希望商標が「地名+商品名」であること、機械漉きの低価格の和紙に押されて手漉き和紙の販売が苦戦していること、手漉き和紙の担い手である組合員の減少で悩んでおられること、京都府・綾部市などから地域活性化を期待されていることなどの事情をお聞きし、「黒谷和紙」を一般商標ではなく地域団体商標として登録して、貴重な地域資源のブランド化を図ることを勧めました。
商標に詳しい専門家(弁理士)を派遣し、地域団体商標の登録要件及び周知性を証明するための具体的な資料、適切な指定商品の選定、ブランド管理の重要性等についてアドバイスを行いました。商標出願については特許事務所に依頼され、出願してから登録まで2年を要しましたが、その間も同組合は地道に周知性を上げる活動に取り組まれ、地域団体商標として登録することができました(商標登録第5949427号)。
相談当初は商標制度に関してほとんどご存じでない状態でしたが、地域団体商標権取得の取り組みを通じて、商標を活用したブランド化の重要性を理解して頂けたと思います。この取り組みをきっかけに黒谷和紙を使った紙布の商標「黒谷綜布」も組合独自で出願・登録されました(商標登録第5927351号)。商標の活用はこれからですが、商標を最大限活用して黒谷和紙のブランド化を着実に進めて頂きたいと思います。
地域団体商標の登録要件である周知性を証明する作業は、当初想像していた以上に大変でしたが、知財総合支援窓口の担当者及び専門家からの支援を受けて登録することができました。出願から登録まで2年間という長い道のりでしたが、その間継続して伴走支援をして頂けたこと、商標に強い専門家から適切な支援を頂けたことが登録につながったと思います。
今回、地域団体商標登録に向けた支援をする中で、周知性の証明が高いハードルであると感じましたが、地域団体商標権取得に向けた取り組み自体が周知性アップにつながることも実感しました。「黒谷和紙」が地域ブランドとして確立し、地域活性化につながるよう、今後も継続して支援していきたいと思います。 (小倉 一郎)
地域ブランド「黒谷和紙」の地域団体商標権取得支援(392.3 KB)
掲載年月日:2017年11月21日