当社は、東日本大震災で甚大な被害を受けた気仙沼市に立地する企業です。震災前の社屋は、海岸に近い地域にあったため津波により全壊流失しましたが、現在の所在地で営業を続けています。
気仙沼市は、世界有数の漁場である三陸・金華山沖で操業する漁船の主要な水揚げ港の一つであり、地域の産業の多くは漁業に関係しています。当社は水産加工などで使用する水の処理の技術を保有しており、地域の復興に貢献しています。
当社の水処理技術には、牡蠣殻を利用します。地域では牡蠣の養殖が盛んですが、牡蠣の重量の約八割は牡蠣殻で、これは漁業系廃棄物の中の一般廃棄物に該当します。とはいえ牡蠣殻は、酸性の環境でアルカリ成分を溶出するため、土壌の改良や水の浄化に用いられる他、植生や微生物の生育に必須のミネラル成分を含むため、肥料としても用いられ、微生物を用いる水処理装置における微生物を棲息させるための担体としても極めて有用です。
当社はこの牡蠣殻の特性を応用した排水処理装置を開発し、宮城県内をはじめ全国に設置した実績があります。
当社は、地域の水産加工業者が共同で使用するための処理能力 700 トン/日の水処理施設を提案して採用され、当該施設の運用管理も委託されています。これも牡蠣殻を微生物の担体として使用しています。
今般、当該施設をコンパクト化し、処理能力が 5~20 トン/日で、散水濾床と浸漬濾床の両方の機能を備えた、小規模事業所向けの装置を開発しました。本装置は簡略な構造で無人運転が可能であり、その構造の独自性が認められて特許登録されました。この開発には県の補助金の交付を受けています。
同社は以前から知的財産権の保護に注目して、窓口に相談しておられました。 今回、同社が開発した装置は、前記のように独自の構造を備えていて、相談者である同社社長自身も、このような構造の水処理装置を見たことがなく、永年の経験や知見に照らして、特許登録の可能性があると考え、窓口に相談に来られました。
窓口担当者が同社を訪問し、試運転中の水処理装置を見せて頂き、図面を参照しながら装置内部の構造や、処理の対象となる水の処理経路について、説明を受けました。併せて、J-PlatPat による先行技術調査のため簡単なテキスト検索を支援したところ、説明の内容に類似した文献は見受けられませんでした。
後日改めて、J-PlatPat によるテキスト検索と特許分類検索の方法を説明し、調査を行われた結果、やはり類似技術が見出せなかったとのことで、2件の特許出願を支援しました。平行して、本技術を県の担当者に紹介したところ、同社は「宮城県新エネルギー等環境関連設備開発支援事業費補助金」を申請され、その結果採択を受けることができました。
特許出願は、記載不備を指摘すると同時に補正を示唆する内容の拒絶理由が通知されましたが、手続補正書作成について助言し、内1件は無事登録(特許第6425217号)となりました。また、装置の性能評価について専門家(技術士)の支援を受け、商品化への寄与が期待できます。
同社は、窓口の助言を受けて、今回初めて先行技術調査から自身で行うことにより、自社技術と他者技術の相違がより明確になり、水処理における技術動向も把握できました。これによって、開発の段階では、特許要件が認識できなかった装置の付属品についても、装置本体とは別に特許出願することができました。
従来から、ある程度認識していたことですが、同業に携わっている他者の特許権の現状を正確に把握しておくことが、技術開発を進める上で、極めて重要であることが認識できました。未だ窓口を利用したことがない方で、『これは特許にならないかな・・・』という案件をお持ちの方には、何でも窓口のご相談することを推奨します。
同社は水処理技術に関しては、ユニークな技術と知見を持っています。今般同社が開発した水処理装置は、イニシャルコストもランニングコストも従来よりも大幅な低減が可能で、小規模事業所への普及が期待できます。今後の商品化については、窓口と連携する様々な機関の支援が可能です。ご相談ください。 (片平 忠夫)
水処理装置の特許出願の支援(540.3 KB)
掲載年月日:2018年12月17日
更新年月日:2021年3月 4日