風化した琉球石灰岩の土壌と強い紫外線のもとで育った沖縄の伝統野菜は、ミネラル分とカルシウムが豊富で、抗酸化作用が強いものが多いと言われています。しかしながら、健康によいこれらの沖縄伝統野菜を本格的に栽培し、鮮度を保ったまま消費者に届ける施設や販売網が不足していました。
本組合は株式会社琉球エコプロジェクトを中核企業として、沖縄伝統野菜の生産者で設立しました。設立目的は、伝統野菜の提供、受託栽培、受託加工ですが、2018 年11 月15 日に完成した新工場では、県内初の酵素処理単細胞装置を導入し、沖縄伝統野菜の成分・味を維持したまま衛生的に処理するとともに廃棄物の大幅低減に成功し、全国販売が始まっています。
新工場が完成した国頭村今帰仁(なきじん)村は、沖縄伝統野菜の中でも効能が注目されているクーガ芋、モリンガ、クワンソウの最大の産地で、フーチバーや月桃、秋ウコンなどの栽培も広く行われている地域です。
今回、新工場に導入した酵素処理単細胞化技術は、九州大学農学博士の高橋慧先生が開発した特許技術を使用しており、従来の粉砕圧縮加工と異なり、野菜の外皮がまるごとピューレとなるため残渣廃棄も非常に少なく、また、野菜本来の栄養価を残したままの商品となります。
なお、新工場では各工程において高度な品質管理、徹底した衛生管理を行っており、現在HACCP 導入に向けて準備中です。
植物は二重の細胞壁を持っていますが、この細胞の接着物質を酵素で切り、細胞の一つ一つを壊さずにバラバラにして、有用成分を細胞内部に閉じ込める完全単細胞化技術を利用した加工品を提供しています。例えば、野菜ジュースは一般的に機械的磨砕(ピューレ)で圧縮して作りますが、この方法では、果皮や搾汁カスが廃棄されてしまいます。完全単細胞化技術はこれらの箇所も利用できるので、廃棄も少なく、かつ、お子様やお年寄りにも食べやすく、飲みやすい100%天然の自然食品づくりに適しています。
同組合の中核である株式会社琉球エコプロジェクトが、沖縄伝統野菜のクーガ芋の効能に着目し、地域で伝承的に呼ばれていた名称を商標登録して、商品化を目指すお手伝いと第三者による登録商標侵害への対応支援を行ったのが窓口利用のきっかけです。
このたびは、沖縄県伝統作物生産事業協同組合の発足に伴い、単細胞化野菜商品の周知、拡販に向けての統一ロゴマークの商標登録について相談がありました。
製品のコンセプトを表現した全国レベルで通用するロゴマークの商標登録出願支援でしたが、準備されていたロゴマークは大手デザイン会社に著作権がありましたので、著作権対応について助言し、商標登録出願(商願2018-99179)に繋げました。
また、新工場の設立を進めており、コンセプトと新たに導入する技術について話を聞く中で、本事業は外部に公表できない多くのノウハウが含まれていることがわかりました。営業秘密管理について伺ったところ、当組合の理事長より過去にノウハウが流出した経験を伺ったため、営業秘密管理体制について専門家による指導を提案しました。
営業秘密管理について、INPIT 知財戦略アドバイザーが2 回訪問して指導を行いました。第1 回目は工場の完成前に、知財管理の重要性と対応策について具体的な事例及び資料を用いて説明し、第2 回目は工場完成直後に工場内を見学し、衛生管理・品質管理の徹底した工程と営業秘密管理に向けた表示板の設置状況などを確認しました。
当組合の理事長である安里氏は健康に良い沖縄伝統野菜をできるだけ丸ごと、そして成分そのままに県内外の消費者に届けたいとのコンセプトを実現するため、従来の沖縄の野菜加工工場の概念を変える最先端の工場を立ち上げ、新たな技術を導入しました。その過程で、ブランド化、営業秘密管理の重要性の認識を深め、社内規程整備に役立てています。
知財と言えば特許という言葉が最初に思いつくが、経営者にとってブランド力(品質に対する信用度)がそれ以上に重要になることがある。ブランド力は簡単に短期間で構築できるものではなく、長年の絶え間ない企業努力の積み重ねによって形成されるものである。そのためには従業員全員が事業目的に沿った行動をとり、蓄積した技術・ノウハウを営業秘密として自分たちの財産にすることが重要である。
沖縄の伝統野菜にはまだまだ知られていない”力”があることを今回の支援で教えていただきました。是非ともこの技術・商品で沖縄野菜を広めてほしいと思います。 (本藤 勉)
沖縄伝統野菜をまるごとピューレに(508.3 KB)
掲載年月日:2019年6月18日