当社は、節句人形工芸士「蘇童(そどう)」の名で二代、節句人形を作り続けて65年になります。「蘇童」は、地元八百津(やおつ)町に流れる木曽川の渓谷「蘇水峡」と、幼い子を表す「童(わらべ)」から、一文字ずつ使い、無くなることのない永遠の子供たちを想い人形を作るところから名づけられました。
桃の節句人形であるひな人形、端午の節句人形である五月人形の他、お正月飾りの羽子板・破魔弓、市松人形などの作品制作の他、お人形修理も行っています。
伝統的な節句人形の制作はもちろんのこと、独自の節句人形を制作する創作力の高さです。店舗の2階にある工房では、毎年、年明け頃から、6月に愛知県で開催される中部節句人形工芸品コンクールへ出品するための作品の創作が始まります。同コンクールでは、与えられたテーマを基に、人形師たちが技術力の高さを競い合います。同コンクールにおいて、節句人形工芸士「蘇童」オリジナルのひな人形は、美しく、時には大胆な配色と細やかな技術によって表現される世界観から、数々の賞を受賞しています。
ひな人形の楽しみ方を広げたいとの考えから生まれたのが「手まり雛 ころろ」(商願2019-15610)です。「手まり雛 ころろ」は、飾って愛でるだけではなく、その見目から手に取って、柔らかさを感じ、いろんな形で楽しむことができる特別なひな人形です。お内裏さまとお雛さまは、手に取って、触れて楽しむからこそ、お顔や衣装には、素材はもちろんのこと、配色の組み合わせにも拘りました。また、昨今の住環境にも溶け込むよう、飾り台や屏風など小物にも工夫を施しています。
岐阜県よろず支援拠点からの紹介です。よろず支援拠点では、店舗1階にある展示場への集客や、ホームページを活用した販売促進の支援をされていました。そんな中、新しいコンセプトのひな人形の話になり、よろず支援拠点の担当者から当窓口の紹介がありました。そこで、当窓口では、意匠権の活用について相談を受けるため、同社を訪問しました。
外観上の特徴を有するひな人形であることから、意匠制度の概要、手続流れ、費用の説明を行いました。しかし、同社が守りたいものは、1件の意匠権では十分に守れないことがわかりました。相談者が知的財産をどのように活用したいと考えているのか聞き取りを行う中で、伝統的なひな人形にとらわれず、新しい要素を取り入れ、チャレンジするための支援を求められていることに気づきました。
デザインに精通した専門家の派遣を活用し、イメージやテーマから思い起こされる色彩、素材と色彩の組合せによって需要者が受けるイメージについて、ひな人形に囚われない視点での助言を受けられました。また、その商品イメージから、「手まり雛 ころろ」の名称で商品展開を行うことが決まり、商標登録出願の支援を行うとともに、岐阜県よろず支援拠点では、商品プロモーションの支援が行われました。
当窓口の活用により、素材や色彩の考え方、組合せに幅が広がり、その後出品した節句人形工芸品コンクールでは、上位に入賞されました。また、「手まり雛 ころろ」は、予定していた制作数が完売するほどの人気商品となり、今は、同シリーズの新商品制作を行われています。商品イメージをネーミングに活かし、商標権を活用することで自社のオリジナル商品であることを強く感じられています。
よろず支援拠点への相談をきっかけに、知財総合支援窓口では、知的財産権の取得支援だけでなく、当社の強みであるオリジナル商品の創作力を強化する支援を受けることができ、作品作りが広がりました。自社で全てを賄うことは難しく、知財総合支援窓口やよろず支援拠点への相談は、事業の強化に繋がります。今回のアドバイスを今後も継続することで、プラスになるよう活かしていきたいです。
ひな人形の制作は全てが手作業です。一体一体に込められた節句人形工芸士としての思いを感じる作品ばかりです。これは、同社の知的財産に対する考えや思いにも通じるものがあり、作品を活かすための知財活用を意識されていました。今後も権利活用を考えた幅広い支援を行っていきたいと考えています。 (渡辺 奈津子)
手のひらに乗せて楽しむひな人形と商標の活用(432.4 KB)
掲載年月日:2019年10月28日