当社は、建設会社の経営者が別途開業した、沖縄の三線(三味線)を製造販売する、工房兼店舗です。趣味で三線演奏を嗜んでいましたが、趣味が高じて三線を改良・修理する技術を身に付け、今回の特許出願に関連する新製品を核とした、新たな事業を立ち上げた経緯があります。
従業員は、専門の職人と販売促進の担当者のみですが、海外生産が増えてきた沖縄三線の業界にあって、県内で製造、組立を行う体制をとっています。また、地域の障害者の就労施設と提携して、障害者が製作する三線の部品を使用しており、障害者雇用の促進にも貢献しています。
もともと古来の弦楽器である沖縄三線は、弦の振動を共鳴させる胴部分に蛇革を用いてきましたが、戦後、原料となるニシキヘビが減少したことから合成皮革に置き換えが進み普及しました。屋外で演奏を行った経験から、高温時や雨天時などに使用しにくいこれまでの楽器の表面素材を改善できないか検討してきました。そこで、今回の特許出願に関連し、ペットボトルなどにも使用されているポリエチレンテレフタレートを胴表面の素材に採用し、胴部分と特殊な接合方法をとることで、雨天に左右されず、伸びやかな音質を保つ三線を実現することができました。
さらに、ポリエチレンテレフタレートを表面に採用したことで、表面素材を2層にして、2層の間に写真やイラストを印刷したシートを挟み込むことで、表面のデザインが自在になることに着目し、顧客が好みの写真などを持ち込んでオリジナル三線を製作するサービスを開始しました。
楽器としてのマーケットのみならず、伝統行事やお祝い事、ご両親やお孫さんなど大切な人へのプレゼント、開業開店祝いなど様々なシーンで活用される贈り物として、新たな市場を開拓できると期待しています。
同工房は、以前、建設関係の技術について、自身で特許出願を行った経緯があり、知的財産について認識がありました。その後、知的財産の活用からは遠ざかっていたことから、今回、新たな素材を用いる三線を開発中の段階で、知人からの紹介をきっかけに当窓口をご利用いただきました。
開発中の三線の製造過程や製品に特許性があるか、特許出願した方が良いかとのご相談に対し、専門家(弁理士)を派遣し、胴の表面にポリエチレンテレフタレートを固着させ、表面の張力を維持する方法に関して特許性が見いだせるのではないかとのアドバイスを行いました。また同相談者が有する楽器関連の部品(演奏時に用いるバチ)についても特許、実用新案などの活用可能性を示しました。
その後、相談者は三線本体とその製造方法に関して特許出願を行い、部品に関しては実用新案登録出願を行いました。出願後、県内の発明品の展示会出展と同時に店舗の開業を行い、製品の販売を開始しました。販売開始に合わせて、販売価格をどう設定すべきかとの相談がありました。県内では海外産の三線の普及につれ、価格は下落する傾向にあり、どのような価格水準に設定すべきか判断が難しい状況です。そこで、よろず支援拠点と連携して販売戦略の支援を行い、製品に合せた販売ルートの考え方や販売促進の方法、原価計算を踏まえた価格設定の方法についてアドバイスを行いました。
その後も当社では、製品の改良を継続して行っており、その改良点については知的財産権を活用する必要性があるのか、検討を行うようになっています。また、販売促進についても方針を定めて営業活動を行い、販売価格や収益を維持できるよう品質のPRなどに努めるようになりました。
窓口担当者のアドバイスを得て、特許、実用新案、意匠の出願ができており、とても感謝しております。当初から気軽、丁寧に相談に乗っていただき、助言もいただき、私としても柔軟な発想がたくさんできました。感謝です。
最初にご相談いただいてから、半年強で製造方法の確立、特許等の出願、そして店舗オープンと製品の発売をスピーディに成し遂げられた好事例だと思います。発売に際し、よろず支援拠点と連携して、販売戦略や価格設定にも関わることができ、経営課題の解決にも貢献できたと感じています。 (宮川 準)
楽器に関する考案を特許出願し製品化(368.6 KB)
掲載年月日:2020年3月 4日